台湾を10倍楽しむための最新情報誌!!

【アート】台北雙年展2020~あなたと私は同じ星に住んでいない①

2年に一度開催されるアートの祭典「ビエンナーレ」。

昨年末スタートした「台北ビエンナーレ2020」では、「你我不住在同一星球上/You and I don’t Live on the Same Planet(あなたと私は同じ星に住んでいない)」と題し、台湾だけでなく世界各国のアーティストたちが作品を寄せています。

チーフ・キュレーターとコンセプト

チーフ・キュレーターを務めたのは、フランスの科学人類学者ブリュノ・ラトゥールと、同じくフランス人で国際的に活躍するアーティスト、マーティン・ギナード。
今回2人が掲げるコンセプトは「あなたと私は同じ星に住んでいない」。温室効果ガスによる生態系の破壊、昨年から続く新型コロナウイルスの脅威に直面しながら、各国での対応は完全に異なっています。これはそれぞれ利権が絡んだ見方をしていたり、政治や外交の戦略によるもので、傍から見ているとまるで同じ星に住んでいる人ではないかのよう。

とくに印象的なのが、このくだりです。
It is clear, for instance, that Donald Trump and Greta Thunberg don’t live on the same planet! In the world imagined by Donald Trump,CO2 emissions are not an existing threat to the environment, greenhouse emissions are a mere belief, and business as usual must go on with American interests at its center.Obviously, those who support such a view don’t live on the same land as those who are suffering from a deep ecological crisis.

(トランプとグレタ・トゥンベリが同じ星に住んでいないことは明らかだ。トランプの世界では、CO2排出は環境に対する脅威ではなく単なる思い込みで、アメリカの利益を中心にビジネスが続けられなければならない。こうした見解を支持する人々は、生態系の危機に苦しむ人と同じ土地に住んでいるわけがない。)

最近で言えば、「コロナウイルスは存在しない」と主張する人と「存在する」とする人がいて、これもまた「別の星の住人」と言えるでしょう。

しかしその一方で、これら〝別の星の住人〟は日々出会い、争うことが起こります。同展覧会では展示エリアを異なる惑星系にたとえ、星と星が衝突するように人々が出会い、その出会いを通じてコンセンサスを取り、来場者が住みたい星を見つけることを目指したといいます。

世界27の国・地域から57名のアーティストが作品を寄せた台北ビエンナーレ。

会場はMRT圓山駅から徒歩5分の「台北市立美術館」です。

展示作品

Fernando PALMA RODRÍGUEZ(フェルナンド・パルマ・ロドリゲス)~メキシコ

「序曲」と題されたエリア、エントランスホールに展示されているのは、メキシコのFernando PALMA RODRÍGUEZによるロボットのオブジェ。

工学を学んだバックグラウンドを持つロドリゲスは、電気や建材などからメキシコ先住民であるナワ族の彫像を作り上げました。

ナワ族の視点によれば、人間だけがペルソナ(人格)を有する存在ではなく、対話できるものはすべて、テーブルやイス、自動車、天と地、山、風すらもペルソナを持つというのがロドリゲスの見解です。

美術館に足を踏み入れた来場者はまずこれらの“ペルソナ”と対面し、対話することとなります。

Franck LEIBOVICI(フランク・レイボヴィッチ)&Julien SEROUSSI(ジュリアン・セルシー)~フランス

フランスのアーティスト、Franck LEIBOVICI と Julien SEROUSSIによる共同インスタレーション。

セルシーは国際刑事裁判所(ICC)の調査員を務めたこともあり、コンゴ民主共和国のボゴロ村で2003年に起きた虐殺事件を取り上げています。

壁一面に貼り出されたたくさんの証拠写真やドキュメント。これらは実際に手に取って、スペースに置かれたボードに貼り替えたりまとめたりすることができます。

アート作品として鑑賞するだけでなく、ICCの事実検証プロセスを体験でき、社会科学と理論的考察にアートを組み合わせた、非常にアカデミックな作品といえるでしょう。

 

Hicham BERRADA(イシャム・ベラダ)~モロッコ

展示室内に入ると、圧巻の180度スクリーンに映し出されているのは、微生物を顕微鏡で覗いたような映像。

これはアートのほかに科学者でもある作者が、有毒物質を水槽に流し込み作り上げた洞窟だとか。

一見すると色鮮やかな美しい世界だが、その実「汚染された世界」。作者曰く「汚染とは、特定の範囲で起きる高濃度の〝純粋〟」。グローバリゼーション問題も、見方を変えれば一種の最適化(ハイパー・ローカライゼーション)である、といいます。

秦政德(チン・ジェンダー)、李佳泓(リー・ジャーホン)、林傳凱(リン・チュワンカイ)、陳怡君(チェン・イーチュン)~台湾

4人の台湾人アーティストによるインスタレーション「在冷戰裡生火(冷戦の中の火)」。

日本統治下、そして国民党政権の支配下の台湾における、政権からの「監視」をテーマとしています。

展示は国民党の精神シンボルである「梅の花」と同じ五角形に配置され、真ん中に冷戦を象徴する記念碑。そしてその周りには国の統治に関連する公文書や文書、オブジェ、さらにその外側に当時を生きる人々と、そして支配する側の姿を概念的に映し出す5つの映像と、三層仕立てで構成されています。

Antonio VEGA MACOTELA(アントニオ・ベガ・マコテーラ)~メキシコ

「Burning Landscape(燃える風景)」と題されたジャガード織の巨大なタペストリー。

17世紀のスペインの詩人、ソル・フアナ・イネス・デ・ラ・クルスによる詩作「Incendio」にインスピレーションを得て制作したといい、一見するとモノクロに描かれた焼け野原が広がっていますが、実は「ステガノグラフィ」と呼ばれる情報隠蔽技術を採用。「ステガノグラフィ」とは情報の中に情報を隠すことを指し、この作品には罪を逃れた脱税者を糾弾する機密コードが織り込まれているそうです。